大判例

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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)1176号 判決 1971年12月25日

原告

美土路達雄

外六名

右原告ら代理人

藤本正

外二名

被告

学校法人協同組合短期大学

右代表者

滝沢敏

右代理人

所沢道夫

外二名

主文

1、原告らの訴えをいずれも却下する。

2、訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、申立

一、原告ら

「被告は、被告協同組合短期大学の縮小、解散を理由として、原告らを解雇する権利のないことを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする」

二、被告

本案前

主文第一項同旨

本案につき

「原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らも負担とする」

第二、請求原因

一、被告は昭和三〇年に、従来財団法人協同組合学校によつて実施してきた教育の充実を期するため、「特に農業協同組合の指導者、経営者たるに必要な専門的知識、技能を授け、協同精神にもとずく有為な人材を育成し、以つて農業協同組合の健全な発展に貢献せんとする」趣旨の下に、学校教育法および私立学校法にもとづき設立された二年制の短期大学であり、一学年の定員は六〇名、外に農協の職員、組合員が受講する通信教育部がある。被告短大の運営費の大部分は当初より農協団体が負担し、また農協団体の幹部が被告短大理事を占めている。

原告らは被告短大に勤務する教職員であり、原告美土路達雄、同佐藤治雄は教授、同柳沢宏孝、同平川輝夫は助教授同芝康子、同井上登喜子、同青木幸江はいずれも事務職員である。

原告らはまた全国農業協同組合労働組合連合会(以下全農協労連という)に加盟する、協同組合短期大学、協同組合経営研究所合同労働組合(以下合同労組という)の組合員である。

二、被告短大においては設立以来、日本の農業と農協の正しい発展をめざす民主的ですぐれた教育が実施され、全国の農協に有為な人材を数多く送り出し、これらの者は農協における中堅幹部として活躍しており、その実績について農協の内外から高く評価されている。日本の農業がきびしい状況に直面している今日、被告短大の存在意義は今後一層強まりこそすれ、減じることはない。

三、被告短大の解散の動き

しかるに近年日本の農業がきびしい局面を迎え、政府の農業政策が次第に農業を荒廃させる反農民的なものとなるや、かかる政府の施策に同調迎合し、その施策の推進に協力してきた農協団体の一部上層役員には、被告短大の存在ががまんのならないものに映ずるようになり、被告の解散、短大の廃校を企図するようになつた。すなわち

1、昭和四二年八月、被告短大理事会の一任決議をうけて、全国農業協同組合中央会(以下全中という)の理事会が設置した農協教育機関整備委員会は、農協教育体制整備の必要性、全中経営の中央協同組合学園の新設等を骨子とする答申をし、全中理事会はこれを承認した。右答申は被告短大の関係について直接には何ら触れていないが、右新学園の設置は被告短大解散の含みをもつものであつた。

同年一一月の全国農協大会において右答申に沿う「農協教育振興に関する決議」がなされ、中央協同組合学園の設立が決定され、その後は右新学園の設立決定をもつて短大解散の方向が決定されたかの如く主張されるに至つた。

その頃全中理事会は被告短大への交付金支出は昭和四五年三月をもつて打切る旨決議し、これをうけて被告短大理事会は、昭和四三年度をもつて学生の募集を最終とする旨決議した。

かくして、反農民的な農協の施策を推進するのに都合のよい職員教育を行なうため、莫大な資金を投じて中央協同組合学園が設立される一方、昭和四四年三月被告短大評価議所会、理事会において、近く被告短大を解散する方向で処理することを決議し、同年四月合同労組にその旨通告してきた。

2、昭和四五年三月には通学課程の学生が卒業すると、通学生は留年した三名のみとなり、外に通信教育部学生が在籍するのみとなつた。

さらに被告短大は同年一二月二九日在籍通信教育部学生一、一九九名の大部分一、〇三九名を、学費滞納を理由に除籍処分に付したが、これは被告短大の従来の方針に反する全く異例かつ不当な措置であり、専ら被告短大の廃校、解散を企図し、少なくとも通信学生がごく少数になつたことを口実に、原告らを解雇する手段としてなされたものである。

3、被告短大は昭和四五年一月および二月に、二月一〇日を締切日として職員の希望退職を募集した。

4、さらに、被告短大は同年五月三一日には第三寮をとりこわし、第一寮をもとりこわそうとしている。

四、被告短大解散の違法性ならびに原告らに対する解雇権の不存在

(一)1、憲法二六条、教育基本法三条、六条一項の規定にてらし、私立学校もまた公教育制度の一環として公共性を有するものである。

それと同時にそこでの教育についても、教育基本法一〇条および憲法二三条の保障は当然に及ぶものと解される。すなわち教育基本法一〇条の禁止する教育に対する不当な支配の主体には、教育行政機関のみならず私立学校の理事会も含まれるのであり、私立大学の教員も当該該大学設置者等に対する関係において研究教育の自由を保障されている。而して被告短大寄附行為二八条は(私立学校法五〇条一項各号所定の事由の外)「理事の三分の二以上の同意及び評議員会の議決によつて解散する」旨定めているが、右議決がなされた場合でも、私立学校の公共性に照らし、合理的事由なく、ことに設立目的がなお存在するにもかかわらず、国民の教育を受ける権利を侵害するに至るような解散は許されず、まして、教育内容が学校設置者側の意に沿わないというような恣意的理由で解散することは、教育基本法一〇条、憲法二三条の精神にかんがみ到底許されないというべきである。

2、本件において、被告短大評議員会、理事会は前記のように昭和四四年三月、被告短大を解散する方向で処理することを決定したが、いまだその合理的事由は何ら明らかにしておらず、また被告短大設立の目的は今日むしろその重要性をましこそすれ、消滅していない。さらに被告短大解散の重要な理由、動機は被告短大における教育が農協団体の一部上層役員の意に沿わないものであるためであり、教授会を意のままにできず、気にいらぬ教授らを解雇できない以上、解散以外にないとするのみが被告短大解散の真の意図である。

ちなみに農協が中央協同組合学園を設置したのも、短大の教育を不当に支配できないため、短大に代わるものとして、学校教育法によつて規制されない恣意的な教育を実施しようとするためである。かかる不当な意図に基づく恣意的な解散は憲法二六条、二三条、教育基本法一〇条に反する違法なものといわなければならない。

(二)1、そしてかかる違法な解散を前提として原告ら教職員を解雇することは解雇権の乱用として許されないのであり、解雇がなされれば無効である。

また被告短大は原告ら教職員が正しい教育を行なつたことに対する報復措置として、解散に藉口して原告らを解雇しようとするものであり、この点においても教育基本法一〇条、憲法二三条に違反するものである。

2、不当労働行為。また被告短大がなさんとする原告らの解雇は被告短大の正しい教育を支えてきた労働組合の組合員たる原告らを、正当な組合活動の故になす不利益取扱いに外ならず、労組法七条一号に違反し、無効である。

(三)、以上の次第で、被告短大はその縮小、解散を理由として原告らを解雇する権限を有しないことは明らかである。

五、本訴の確認の利益

(一)、被告は前記のように解散、短大の廃校の方針を打出し着々その手はずをととのえており、それに伴ない原告らは今日・明日にも解雇されるおそれがあり、現に被告は昭和四五年二月一〇日を締切日として職員の希望退職を求めており、これに応じないと指名解雇されることは必至である。

原告らがこのような不安定な地位にある以上、解雇権の不存在確認を求める利益がある。

(二)、本訴請求が認容されれば、被告は判決主文の趣旨に反して原告らを解雇することができなくなるし、右趣旨に反する解雇であればその理由の当否を判断するまでもなく、解雇は直ちに無効とされる。しかも当面原告らの解雇がなされれば、特段の事情がない限り、解雇の理由が明らかにされると否とに拘らず、被告の解散またはその準備のためのものであることは明白である。

(三)、形成権たる解雇権の行使以前でも、当事者間に形成権の存否について即時確定の利益、必要があれば、形成権不存在の確認を訴求する利益があると解すべきである。しかして本件において原告らの法的地位の不安定が現存し、それについて当事者間に基本的な紛争が存するのであるから、即時確定の利益があるというべきである。

第三  被告の本案前の主張

一  原告らの本件訴は確認の利益を欠くものであるから却下さるべきである。けだし

(一)  原告らがその請求の趣旨どおりの判決をえたとしても、その趣旨に反した解雇か否かにつき当事者間に争いがあれば、原告らは再度労働契約上の地位確認等の訴訟を提起する外なく、本件のごとき訴えは原、被告間の紛争の最終的解決にとり有効適切な手段たりえない。

(二)  法人の解散または事業の縮少を理由とする解雇を制限すべき法令上の制限はなく、ただ権利乱用等の一般条項が問題となりうるにとどまる。かかる一般条項の適用判断に当つては、口頭弁論終結時までに存した一切の諸事情を比較考慮しなければならないところ、本件訴ついての判決後解雇権行使後の将来の事情の変動を考慮すれば、将来ありうベき形成権の行使が権利乱用等に該当するか否かをどのように判断しうるというのであろうか。この点においても本件訴は確認の利益を欠くことは明らかである。

第四  請求原因に対する答弁および主張

一  請求原因一項の主張事実のうち、被告短大の運営費を当初より農協団体が負担しているとの点を除き、その余の事実は認める。

被告短大の運営費は設立当初農協団体によつて負担されていたが、現在では全国農業協同組合中央会(全中)の交付金によつてまかなわれている。

同二項の事実中、被告短大卒業者が全国の農協の中堅幹部をして活躍している事実のみ認め、その余の点は否認ないし争う。

同三項冒頭の主張は否認、1のうち、中央協同組合学園設定の意図ないし目的に関する主張は否認し、その余の主張事実は認める。

同2のうち、原告主張の通信教育部学生の学費滞納を理由とする大量除籍処分が被告短大の従来の方針に反する異例かつ不当な措置であるとの主張および右除籍処分の意図に関する主張はいずれも否認し、その余の事実は認める。

同3のうち、被告短大が原告らのうち事務職の者三名に対し二月一〇日を締切日として希望退職を求めた事実は認める(右退職勧告に対し事務職、労務職一九名中、一二名が応じた)。原告ら四名を含む教授、助教授に対しては、いまだかつて希望退職を求めた事実はない。

同4の事実は認める、第一寮についてもとりこわし作業に着手したが取りこわすことができなかつた。

請求原因四(一)1のうち、被告短大寄附行為中に原告主張の解散事由の定めがあることのみ認め、その余の主張はいずれも争う。

2の主張は否認ないし争う。被告短大が解散の方向に向つているのは認めるが、これは近年の協同組合運動の時代は潮流にかんがみ、被告短大が系統農協の教育機関としての使命を適切に果しがたくなつてきたことが背景となつている。

第五  証拠関係<略>

理由

一まず本件訴の適否について判断するに、当裁判所は以下の理由により、本件訴は不適法なものと考える。

(一)  本件訴は被告が原告らに対して解雇の意思表示をなす以前において被告の解雇権不存在確認を求めるものである。ところで、解雇権は契約解除権の一種たる、裁判外で行使しうる形成権であり、取消権、解除権等とともにいわゆる廃棄的形成権に属するものであるが、この種廃棄的形成権は、その行使により既存の法律関係を消滅させ、新たな法律関係を発生せしめるもので、このような将来の法律関係の論理的前提たる意味あるいは手段的性格を有するにとどまる。またこの種形成権不存在確認訴訟の既判力は形成権行使後の法律関係の存否には及ばないと解される。これらの点から考えれば、権利保護の資格の面からみて本件訴のごときは、現在の権利または法律関係の存否を対象とすべき確認訴訟の対象適格性を欠くと考えられる。これに対し、「形成権の存否についての争いが裁判所の判断に適する程度に成熟し、裁判所による即時確定の利益、必要が認められるときは、形成権行使前にその不存在を訴求する利益がある」とする見解は、確認の訴の適否を確認の利益を中心に捉え、確認訴訟の対象適格性を抽象的定型的に限定することを排し、具体的事件における裁判所の法的判断に適する程度の紛争成熟性があれば足りるとするものと考えられる。

しかし解雇権行使前に特定の事由による解雇権不存在確認を訴求する本件のような場合、前述のところからして、また、使用者は労働者に対し、労働関係法による制約は免れないにしろ、原則として解雇の目的を有し、解雇事由も特定の一事由に限定されないことに鑑みれば、解雇権行使前に右にいう紛争の成熟性を肯定することには疑問があるといわざるをえない。

(二)  また確認の利益の面からみても、一般的には形成権が行使された後に、相手方はその形成権行使の効果を争い、その無効を前提とする権利関係を主張して争えば足り、換言すればそれがより端的な紛争解決の手段であるといえるし、前述の既判力の及ぶ範囲からみても形成行使前に形成権の不存在を確定する利益、必要はないといえる。これに対しより具体的確定の利益を検討する見地から、本件のごとき解雇権不存在確認の利益につき、労働契約の特殊性に着目し、「労働契約関係において使用者が労働者を解雇した上、就労を拒否し賃金を支払わないという事実上の状態をつくり出すことを事前に阻止するため」にこの種訴の利益がないとはいえないとの見解も存する。しかし右のような利益はなお事実上の問題にととどまり、法的利益を基礎づけると解することは困難であるし、かかる事実状態の形成を阻止するために地位保全賃金仮払仮処分という法的手段も用意されているのであり、それと解雇権不存在確認を本案とする解雇の意思表示仮処分との間にどれほどの径庭があるといえるかは疑問であろう。

さらに本件のごとき訴が実質的には一種の差止請求であることに鑑みれば、その要件として、解雇の危険にさらされている労働者についてかかる訴えを認めなければ十分に救済されえない回復困難な緊急の必要性や他に適切有効な救済手段がないこと―確認訴訟の形態に即していえば、即時確定の利益―を要すると解せられるところ、本件のごとき訴がこれらを充足するものと解することは、前述のところからみてもまたこの種訴えが提起されたというだけで使用者の解雇権行使が制約されるわけでもないことから考えてもみても困難である。

(三)  本件に即して考えるに、かりに前述した解雇権の存否についての紛争の成熟性、即時確定の利益、必要が認められる場合、この種訴の適法性を認める見解にたつても、なお本訴につき、確認の利益を認めることは困難である。被告短大が解散の方針を決定し、その方向においておおむね原告主張のような事実関係が積み重ねられており、事務職員労務職員に対して原告主張の期限を付して希望退職が求められていること等の基本的事実関係は当事者間に争いがないけれども、そのことから直ちに右にいう紛争の成熟性や即時確定の利益、ことに緊急の必要性があると認めることはできない。けだし、原告らに対し予想される解雇が被告短大の解散、廃校を理由とする整理解雇であるからといつて右解散、解雇が権利乱用に該たるか否かは口頭弁論終結時の諸事情を綜合判断して決せらるべきところ、将来の変動の可能性を考慮すれば、原告らに対してなされるかもしれぬ将来の解雇の有効、無効という紛争の最終的解決に有効適切といえる程度に紛争の成熟しているとはいえないし、即時確定の利益、必要があるともいい難いからである。

二結語。よつて原告らの本件訴はいずれも不適法というべきであるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。 (吉川正昭)

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